「…碧海」


しゃがみ込んだままの碧海に話し掛ける。



「…彼は悪くないの…」


碧海が俯きながら答えた。


「彼は気分が悪くなった私に
駆け寄ろうとしただけ…。
何も悪くないの…」


碧海の手がカタカタと震えている。



「ごめんなさい…事故とはいえど…」


震える彼女の手の上に、
ぽたぽたと涙が落ちる。



「私のこと…軽蔑したでしょ…?」


碧海が震える声で尋ねた。



「郁くんの彼女なのに、他の人と
事故でもキスしちゃった私なんか…」



俺はそっと彼女の手を握った。



「してないよ、軽蔑なんて…」

「でも、呆れちゃったでしょ…?
お化け屋敷に入って郁くんと
はぐれちゃって…」

「碧海」


俺はそっと彼女の背中をさすりながら、
彼女を立たせる。



「そんなこと、思ってない。だから、
碧海は気にする事なんかない。
薬飲んで、ちょっと落ち着こう」


俺はそう言うと、
ベンチへと場所を移した。