「……い、郁ちゃ…」
そこにいたのは、郁ちゃんだった。
「ひよりの手を離せよ」
郁ちゃんが少し低い声で言う。
「な、なんだよお前…!」
焦ったように男の子が言う。
私は目の前に立った
郁ちゃんの後ろ姿を見上げた。
「俺は……この子の彼氏だよ。
だからこの手を離してくれ」
”彼氏”
その響きに少しドキリとした。
「な、なんだよっ、彼氏いたのかよっ…」
男の子は私の手を離すと、
そそくさと逃げるように行ってしまった。
「…あ…」
安心したのと、郁ちゃんが
現れた事に対する動揺なのか、
私の手が少しカタカタと震える。
「…大丈夫?」
さっきの低い声とは打って変わった
優しい声が降ってくる。
「……っ」
吹っ切ったはずなのに、
私は何故か郁ちゃんの顔が見れなくて
頷くのが精一杯だった。
(そっか、私ってまだ…)
胸の中にある気持ちに気付いてしまった。
こんなはずじゃない、と
首を横に振る。
