誰よりも



「なにしてんの」

短い言葉を放ち、女の子の母親を睨みつける。

すると突然、女の子がこっちを見て言った。

「めっ、恵ちゃん、お母さんは悪くないから…っ!」

涙目になりながらも、こっちを真っ直ぐに見てくる。

っていうか、なんで名前を知ってるんだ。この子は誰だったか。

「とりあえず!次理恵に手でも出したら許しませんからね!」

その、理恵、と呼ばれた女の子は、泣きそうになりながら、母親の後ろをついていった。

*

部屋に入ると、お母さんの声が響いた。

「恵、理恵ちゃんを叩いたの…?」

叩く?
自分は叩いていない。
当たり前だ。
理恵を知ったのは、今日だ。いくらあたしでも、見知らぬ、それも女の子に暴力など振るわない。

「叩いたの?って聞いてるの!」

突然の大きい声に、思わず怯む。

「…っ、叩いてない」

そう言うと、さっきよりも大きい声が放たれる。

「嘘をつきなさい!叩いたんでしょ!?」

あたしは、叩いていない。断じて。

「叩いたんでしょう!?」

いい加減イライラしてきた。

「叩いてないっつってんだろ!?信じろよ!」

あたしは、さっきのお母さんに負けない声で怒鳴る。