終点の新宿に到着すると、まるで洪水の水が溢れ出すかのように乗客が車内から押し出される。

決してその流れに逆らうことはできない。

流れに身を任せるとはこういうことなのか‥

真奈美はこの瞬間いつも、上京して初めて満員電車を体験したときに感じたことを思い出す。

今ではすっかり慣れたこの状況だが、気分が落ち込んでいるときは、本当に苦痛に思えて仕方がない。

幸い、体力はあるので、貧血で倒れたりすることもなく、無事に乗り切れてしまう。

おまけに真奈美は幸か不幸か?痴漢にあった事がない。

身体も大柄だし、どちらかというと、甘いというより辛い?顔‥小さい頃からボーイッシュだと言われていただけあって、痴漢の好みにはあてはまらないとみえる。

子供の頃、年の離れた従姉が車内で痴漢にあって、持っていた鍵で引っかいて痴漢に怪我をさせた事件があった。

従姉は小柄で可愛くいつも女性らしい格好をしていたが、えらく気が強かった。

その話を聞いたときに、真奈美はもし自分が痴漢にあったら、そんなたくましいことはきっとできないと思った記憶がある。

だが、そんな心配は必要なかった。

最近真奈美がつくづく思うのは、人間‥特に女性の見た目と中身ほど違うものはないということである。

だが情けないことに、それを見抜けない男は多い。

流れに身を任せながら周囲にいる様々な容姿の女性達に目をやりつつ

「あぁ、この中で痴漢にあったことのない女性はだれか当てられるなぁ‥男運なさげな女性ってなんとなくわかるから怖いなぁ‥」

などとまたまたつまらない事を考えながら、いつものようにこれまた無意識にバックから定期券を取り出し改札を抜けた。