躊躇いのキス

 
だけど多分、雅兄があたしを見て、驚いた以上に
あたしのほうが、ドキンと胸が高鳴っていて……。


雅兄は、普段はかけない眼鏡をして、パソコンへと向かっていた。


普段ちゃらけているくせに、
こうやって時々真面目スタイルになるのは罪だ。


雅兄が目が悪いことは知っているけど、仕事中だけ眼鏡をかけるとか女子の心をくすぐりすぎる。


「どうした?」
「あ……これ。
 この前、家に忘れてったでしょ」
「ん?ああ」


紙袋を渡して、中を確認すると、
それが自分のパーカーだと分かって納得していた。


「洗濯もしてあるから、って」

「公子さんもマメだな」


雅兄は、うちのお母さんのことを「公子(キミコ)さん」と呼ぶ。
というか、お母さんがそう呼ばせてるんだけど。

名前で呼ばれると、若返るのよ。なんて言ってたっけ。


「さんきゅ」
「……うん」


受け取って、雅兄はそれをクローゼットへとしまう。

だから、クローゼットを開けたとき、見たくないものが目に入ってしまった。