躊躇いのキス

 
全てのショーケースの千錠の確認をして、
店長に挨拶をしてお店を出た。



「寒……」



店の外へ出たときには、思わず声が漏れてしまうほど寒くて……
息を「はあ…」と吐いて、手をこすり合わせた。




家の前まで着いて、ふと隣の家を見やる。

あたしの家側に見える窓は、すでに明るくなっていて
あの部屋は雅兄の部屋。


きっと明日にでも、さっき買ったネックレスを渡すのかもしれない。

CAの彼女に……。



雅兄の選ぶ人は
いつも決まって大人の女の人だった。

あたしと正反対のような、スタイルもよくて色気がたっぷりで……。


雅兄があたしを選ぶ日は来ないと分かってた。

だからあたしも、雅兄を選ぶことをやめた。


別の人と恋愛をし
雅兄じゃない人を好きになった。


5年と言う月日、雄介を好きになり、
雅兄のことなんかすっかり忘れていると思ってた。