躊躇いのキス


「きっと喜びますよ」
「……だといいな」



あたしにそう言われた雅兄は、少しだけ照れた顔で
心の中で、またズキンと悲鳴を上げたのが分かった。
 

だけどまだダメだ。

最後まで笑顔で見送らないと……。



「ありがとうございました」



ぺこりとお辞儀をし、雅兄が店内を出るのを見送った。

その姿が見えなくなるまで
頭を下げ続け、必死に涙を堪えていた。



「……もう行ったわよ」

「あ、……はい」



どれくらい下げ続けてたか分からない。

いつまでも頭を上げないあたしに、店長が声をかけてきて


「もう閉店時間ね」

「そうですね」


あたしに異変に気付いたのか気づいていないのか
それは分からなかったけど、
時間も21時を過ぎていることもあり、お店を閉めることにした。