躊躇いのキス

 
「ちょっと!勝手に人のベッドで寝てないでよ」
「いや、ここ、俺のベッドだし」


寝ていると思って言い放った言葉に、即答で返ってきた意味不明な返し。

いやいや、あたしの部屋のベッドだし。


背を向けていた体が、ごろんとこっちへ向き直り、ばちっと目が合う。

いつもの意地悪な瞳。
だけど瞬時に分かった。



「……また、おじいさんと喧嘩したんでしょ」

「……」



少しだけ曇ったその瞳の意味は、
だいたいいつも同じ理由。


大好きなおじいさんと喧嘩をしたときの瞳だ。


「ってかさー。
 27にもなって、おじいさんと喧嘩して、人の家のベッドでふて寝するってどうなの?」

「うるせぇよ。
 っつか、ふて寝じゃねぇし」

「じゃあ、何?」

「……お前を慰めに?」

「意味わかんない」


なおも強気にそんなことを言ってくる雅兄に、思わず呆れてため息を吐いた。