躊躇いのキス

 
「ん?どした?」
「……べつに」


いつもなら、罵声を浴びせられるところから始まると思っていたのに、何も反応をしないあたしに不思議に思って顔を覗き込んでくる。

思わず目を逸らしてしまった。


「熱あんの?」
「え?ないよ!」
「顔、赤いから」
「こ、これはっ……」


雅兄の姿に見惚れてっ……

と言いかけたところを、なんとか抑え込んだ。


こんな言葉を言ったら、絶対に調子に乗るに違いない。


ってか、べつに見惚れてなんかないし!!


自分で自分に言い訳をしていて、顔をぶんぶんと横に振る。

そんな姿を、終始じっと雅兄は見ていて……



「お前、いつもそんななの?」
「え?」



顔を上げると、若干引いたような顔をしている雅兄。


「ジュエリーショップだっけ?
 働いてんの」

「う、うん……」

「そんな挙動不審な店員、俺は嫌だ」


と、きっぱりと言われた。