「は?彼女?」


だけど雅兄は、首をかしげて逆に聞いてくる。

とぼけるつもりか……。
それとも……。


「……だって、見たんだもん。
 この前の火曜日……。居酒屋で……雅兄が女の人と飲みに行ってるところ……」

「火曜日……?………ああ」

「そこで見ちゃって……。
 雅兄……その人に向かって………す、好きだってっ……」


そこまで言って、
思い出したせいか涙がじわりと浮かんできた。


泣きたくなんかない。
涙を見られるのは悔しいから。

まだこんなにも、雅兄が好きなんだ、って知られるのが嫌。


雅兄は何のことなのか悟ったみたいで、
一度照れくさそうに上を見上げたあと、再び視線をあたしに戻した。



「その、好きって言葉……

 侑那のことを言ったつもりなんですが」


「………え…?」



敬語交じりで応える雅兄の言葉に
意味が分からな過ぎて、涙も引っ込んでしまった。