馬車は王都から数日かけてある町にたどり着いた。


お出かけ、というにはあまりにも遠い場所。



「こちらでお待ちくださいませ」



馬車は小高い丘の上で止まると、そこにティアを下ろして帰っていってしまった。



ーここは…!!



町を一望できる景色にあの日のことがよみがえる。


ジーニアスとキスを交わし、別れた日のことを。

離れたくはなかったが、あのときはそうするしかなかった。


そして…それはきっと今も同じなのだろう。


あの日とは違う優しい風が頬をなでる。


あのときは言うことができなかったけれど…


今ならささやかな願いを口にすることは許されるだろうか。



「会いたいよ…ジーニアス」



かなわないとわかっていても口にせずにはいられなかった。