ティアは足元に置いてある荷物を見下ろした。


自分が城から出ていかなくてはいけないとしたら理由は一つだ。


自分よりもふさわしい人が彼の近くに来ることが決まった場合だ。


レティシア様は自分を妹のように扱ってくれるし、ティアが意にそわない結婚をさせられそうになったときにジーニアスは婚約者だと言ってくれた。



ー好きだといってくれた。



ー愛しているとも言ってくれた。



だけど、正式に婚約者として発表されたわけでも、はっきりと結婚の言葉をもらったわけでもない。


そのためジーニアスにふさわしい女性が現れたなら引き離されるかもしれないことはわかっていた。


何せ、自分は貴族としての身分も教養も何ももたない身。


幼い頃に交わした婚約の証のスカーフひとつだけでは王族を納得させられるはずはない。


ただ、ジーニアスの言葉ひとつでそばにいられただけ。


わかっていた…ことだった。