しばらく物思いにふけっていると、ふいにコツン、と誰かの足音が聞こえてきた。


この足音には覚えがある。



ーレティシアだ。



ゆっくりと顔を傾けて足音のしたほうを見ると、小さな体が視界に入る。

いつもと違い、薄手の青い柔らかなドレスを身に纏い、ショールをその肩にかけている。


一瞬誰だかわからなくなりそうだが、彼女の持つ独特の雰囲気は変わらない。



「レティシア」



呼びかけるとレティシアは妖艶な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてきた。



「こんな時間までお仕事?」



「ああ」



「そう。それはご苦労なことね。…忙しい理由は私にもわかっていてよ」



そう言いながらレティシアは瞳を伏せ、ひとつ息をついた。