あの舞踏会の日、小さくなったティアを寝かせた部屋からひとりの男が出てきたことを思い出したのだ。
ティアを見られるわけにいかなかったため、あえて舞踏会会場から離れたあの部屋に運んだ。
ティアに何か危害を加えた様子はなかったが、今考えるとあの場にいたのはあまりにも不自然だ。
ーあの男はいったい何者だ?
やや太めの後ろ姿が思い出される。
『ひとりは小太りの男だったねぇ』
宿の女将の言葉が頭をよぎった。
ティアと接点がある小太りの男と、あの部屋から出てきた少し太めの男。
ーまさかとは思うが…。
あの男がティアを連れていったという確信はない。
ないが、妙に気になった。
ーこの際なんだっていい。ティアに少しでもつながるものであるなら調べてみる価値はある。
ジーニアスはこぶしをグッと握りしめた。
ー待っていろ、ティア。お前を必ずこの腕に取り戻してみせるから。
ジーニアスは身をひるがえすと、手がかりを求めてすぐさま王都に向かった。