「うちの紋が付いたものより、こっちのほうが欲しいだろうと思ってなぁ。ああそうだ、婚約の証しとしてぼくの方は…そうだな、あの短剣を貰おうか」
「…短剣…」
「あれぐらいしかないからなぁ。物としての価値はなさそうだが、ジェンティアナとの証となるなら価値がある」
あの短剣は師匠に貰ったもので、採取人として働きはじめたときから今までずっと一緒にいた相棒。
ティアにとって大事なものをゲオルグは奪っていく。
普通であれば、絶望感に崩れ落ち生気が無くなってもおかしくない状況だが、ティアの瞳は今なお光を失っていない。
それどころか、ゲオルグに反抗的な瞳を向けている。
ゲオルグはそんなティアに苦々しい顔を向けたかと思うと、ティアを引き寄せその首筋に顔を埋めた。
その瞬間、ピリッとした痛みがティアの首筋に走った。
「…ーっ!?」
「ジェンティアナ、君は私のものだ。絶対に離さない」
耳元で妖しくささやくと、ゲオルグはティアを解放して部屋を出ていった。
部屋に残されたティアの首筋には所有者の赤い印が付けられていた。