ーまだだ。
ーまだ私はあなたのものになんてならない。
ティアはゲオルグから視線をはずし、目の前の耳飾りをじっと見つめた。
婚約の証しには家紋が必要だ。
そこに刻まれているのは伯爵家の紋章だけで、男爵家の紋章はどこにもない。
「何を見ているんだ?」
ティアが耳飾りを見ていることに気付いたゲオルグが口を開く。
「ああ…紋を見ているのか。なるほど、ジェンティアナの言いたいことはわかるぞ。婚約の証には紋が必要だと言いたいのだろう?」
「…」
「だが、それは必要ない」
「…なぜ」
「今の立場を考えてみろ、ジェンティアナ。君は伯爵令嬢じゃない、庶民だ。庶民が婚約する際、紋など必要ないだろう」
それに、とゲオルグは続ける。