薬品と恋心


ー逃げることなど、できるはずないのに。



ジーニアスのこともそうだが、ここは2階だ。


窓の外を見ても足場になりそうな場所はない。


木の枝が窓近くまでのびてはいるが、その枝は掴んで引っ張ればいとも容易く折れてしまいそうなぐらい細かった。


それをたよりに窓から出たらどうなるかなど言われなくてもわかっている。


しかも、体は身軽な子供ではなく大人の姿なのだから。



ーそう、大人の姿。



不思議なことにジーニアスに手の甲に口づけされてから数日たっているというのにティアはいまだ大人の姿を維持し続けている。


そのことにはゲオルグも気づいているらしい。



「それにしても不思議なものだなぁ、ジェンティアナ。なぜお前は子供の姿に戻らない?」



口元に笑みを浮かべながらも、その瞳はまったく笑っていない。


ティアが子供の姿に戻らない理由はただひとつ。


薬が完全に解除された、ということだ。


愛の秘薬は愛する者同士の口づけでしか解除できない。


そして、心当たりはひとつだけ。