「しなければならない仕事がひとつあったんです」



ティアは湯気のたつ紅茶のティーカップに目を落とし、一度唇を引きむすんだ。



ー笑顔をつくらなくては。



ティアは小さく呼吸を整える。



「そう。仕事が…」



「はい。ですので、近々王都を離れます。レティシア様にはお世話になりました」



ティアは顔を上げると、レティシアにニッコリと微笑んだ。


旅立ったが最後、きっと王都には戻れないだろう。



ーでもジーニアスの幸せが守れるならば、それでもいい。



ーそのために。



貴族の屋敷に世話になっているティアがすべきことは誰にも本当の理由を知られないように消えること。



(それが今の私がジーニアスにできること…これが私の最後の仕事)



ティアは膝の上に置いた手をギュッと握りしめた。