薬品と恋心


ゲオルグは椅子から立ち上がるとティアに詰め寄り、ティアの顎をつかんで上向かせた。


悔しそうに歪められた顔が眼前に迫る。



「…よくも結婚前日に逃げ出してくれたな」



ーゲオルグが結婚相手?



どういうことなのだろう。


確かにシュタットフェルト男爵家も実業家だ。資産家であることは間違いないが、叔父は相手が貴族であるとは言っていなかった。



「意味がわからない、という顔をしているな」



「だって…私は金持ちの商人と結婚するはずだったのに」



自分を追って来ているのは結婚相手の商人しかいないと思っていたティアは驚きを隠せない。



「確かにはじめはそうだった。でもその直前に僕がお前を倍額で買い取ったんだ。調度品付きでな。お前の叔父は喜んでお前を僕にくれたぞ」



ゲオルグはククッと喉の奥で笑った。


ぞくりと背中に冷たいものが走り、ティアは顎にあった手をふり払うと、その場から勢いよく後ずさった。