腰にある短剣を素早く抜き、一閃。
短剣は男の右腕を傷つけ、男は反射的にティアから数歩後ずさった。
切られた腕では剣を支えきれなかったのか男はガシャッと剣を取り落とす。
息苦しさから解放された体に酸素が急激に入り込み、ティアは地面に手を付き、大きく咳き込んだ。
どこからか転がってきた果物がティアの手に触れる。
横目で素早く通りを確認すると、そこには瓶や果物が道に散乱していた。
しかし、何が起こったのかと考える暇はなかった。
「…よくもやってくれたな」
殺気を感じ、背中に寒気が走った。
すぐさま目を上げると、男が傷を押さえながら怒りに燃えた瞳でティアを見下ろしていた。
ー逃げなくては。
ティアは体勢を低くして立ち上がると自分の後ろに続く路地を走り出した。
息は上がり、心臓が痛いくらい脈打っている。
足は震え、力が入らない。
路地を抜けるまでの距離はそんなにないはずなのに、なかなかたどり着くことができない。
それでもなんとか歩をすすめる。
あと、少し。