薬品と恋心


叔父は出掛けていることが多く、帰ってきても酒を飲んでいて、ティアを気にかけることもしない。虫のいどころが悪いのか、ティアを見かけると怒鳴りつけることもあった。


悲しくて、寂しくて、優しく声をかけてくれる人を探してもそんな人なんているはずもない。あまりに辛くて涙をこぼした夜もあった。



(これが普通なんだと思おう。私が傷つくことなんて何もない。何も感じなければいいんだ)



そう考えれば楽になる。ティアは頬を伝う涙を乱暴にぬぐった。


そうして、日に日にティアの顔から表情が消えていった。


叔父が怒鳴りつけても、手を上げたとしても、もう何も感じない。できるのは、これ以上叔父の機嫌を損ねないように薄く笑うことだけ。


両親を失った絶望感と失意の中、ティアを支えているのはただひとつ。


ジークとの約束。



『また必ず会おう』



その言葉と約束のしるしのスカーフさえあれば何もいらない。


とりあえず今はそれを支えに生きるしかない。


たとえ今逃げたとしても、生活力のない子供が生きられるはずはない。


だからせめてあと数年、成長するまでこの屋敷にいなければいけない。


大人になれば。


そうすれば、仕事もできるだろうし、それができれば、ジークに会いに行くこともできる。この屋敷にとどまる理由はなくなるのだ。


そのために今できることは、計算など基本的な勉強、基本的な家事、そして下町での常識を身につけること。


ーすべてはジークに会うために。