耳をすませば、わずかに聞こえる音楽。
あの華やかな場で踊ることはかなわないけれど。
「ジーニアス」
「ん?」
「私と…踊ってもらえませんか?」
女の側からダンスに誘うなんて普通はしないだろう。
でも舞踏会なんてティアには一夜限りの夢。
ただ、思い出が欲しかった。
「いいよ。…ではお手をどうぞ」
ジーニアスは手を差し出した。
ティアはそっとその手に自分の手を重ねた。
手を引かれて再び体が密着する。
顔を上げるとジーニアスの顔が間近にあった。
月明かりを背にしてティアを見つめるその瞳は熱っぽく、色香を纏っていて今にも吸い込まれそうで目が離せない。
ティアは熱に浮かされたようにダンスのステップを踏む。
言えない想いを抱えていることは切なくて胸が締め付けられるけど、今この時だけは幸せを感じられる。
ジーニアス。
好きだよ。
声に出して言うことはかなわないけれど。
せめてダンスの間だけでいいから、あなたの心を独り占めさせて。
ーあなたが、大好きです。

