ティアがジーニアスの胸を軽く押すと、ジーニアスはティアを離した。


離れていく温もりに寂しさがつのる。


押し戻したのは自分なのに、その服を掴んで引き留めたい気持ちに駆られる。


どうしようもなく、胸が苦しい。


今自分はどんな顔をしているのだろう。


このままではきっとジーニアスを困らせてしまうに違いない。



(笑わなくちゃ)



ティアは小さく呼吸を整えると、笑顔をジーニアスに向けた。



「こんなところ見られたら誤解されてしまいますね。取り乱してしまってすみませんでした」



うまく笑えているだろうか。


調合師と採取人としての関わりしかなくても、この関係を壊したくない。


ーだから。



(私の気持ちは知られてはいけない)



それなのに、頭に響く仮面の男の言葉。



『一夜限りの願いもかなうかもしれません』



ーもしも。



一夜限りの願いがもしもかなうなら、ジーニアスと恋人のように踊りたい。



それぐらいは許されるだろうか。