「何を言われたんだ?」



耳元でジーニアスの声が聞こえて、あわてて言葉をさがす。



「ええと…その、ジーニアスが王都に帰らなかった理由を聞きました」



「それで?」



「私のおかげで帰って来たと…それって、私が舞踏会に行くために薬を依頼したせいですよね?王都に帰りたくなかったのに…私のせいで…ごめんなさい…」



言葉にするのが苦しくてだんだんと声が小さくなり、最後の方はやっとのことで口にした。



「違うよ。ティアのせいじゃない」



それをわからせるかのようにティアを抱き締める腕に力が入った。


それでいて苦しいわけではなく、まるで愛しいもののように大切に扱われている感じがして安堵感に包まれる。


ティアは瞳を伏せ、ジーニアスの肩に頭をあずけた。



「もうそろそろ逃げるのも限界だったんだ。レティシアもそれがわかっていたから、ティアを誘ったんだと思う」



ーレティシア。



その名前に安心に浸っていたティアの頭が覚醒する。



(…そうだった)



この人はレティシア様の婚約者。


どうしたって私のものにはならない。



ーこんなこと、してはいけない。