「ティア!!」


仮面の男と入れ違いにジーニアスが走り寄ってきた。


上がった息と、わずかに額に浮かぶ汗から必死に探してくれたことがわかる。



「探したよ!!どこを探してもいないから、何かあったんじゃないかって…」



「…ジーニアス…」



ー私を心配してくれるの?



ー私は…ジーニアスの事情も知らなかったとはいえ、帰りたくなかった王都に帰らせて自由を奪った女なのに。



心配してくれるのを嬉しく思う反面、申し訳なさで胸がいっぱいになり、じわりと涙が目尻に浮かぶ。



ー泣く資格なんてないのに。



「どうしたんだ?さっきの男に何かされたのか?」



涙を見られたくなくて、うつむいてしまったティアの耳にジーニアスの声が優しく響く。



「…違います。何も…されてません…何も…」



「…何もされてないけど、何か言われたんだな」



いつもより少し押さえた声が聞こえたのと同時にぐっと手を引かれた。


背中にまわされた腕。


肩越しに見える月。


耳に届く息づかい。


そして、視界の端に赤銅色が見えた。



(…え…?)



抱き締められているとわかるまでに数秒かかった。


あまりの驚きに涙も申し訳なさもどこかへ行ってしまった。



ーあるのは、戸惑いだけ。