薬品と恋心


大抵の男性はすっぱり断るとすぐに引き下がってくれたのだが、この男性は違った。



「先ほどから貴女を見ていましたがパートナーがいるようには思えません。それに舞踏会なのです。一曲くらい良いではありませんか」



そう言いながらティアの手を素早く取った。



「離してください…っ!!」


捕まれた手をどうにか振りほどこうとすると、強い力が一瞬にして手にかかる。


グッと手を強く握られたティアの顔が苦痛にゆがむ。



「さあ、行きましょう」



男性はにこやかな笑みをティアに向けてくる。


しかし、その瞳の奥と掴んだ手は「逃がさない」といっているかのようだ。



ーこの感覚には覚えがある。



ティアを売った叔父のいやらしい笑顔の下に隠れたもの。



『お前を逃がしてなるものか』



過去の記憶が呼び起こされ、ティアの背がゾッと凍りつく。



ー逃げられない。



ー誰か、助けて。