ガタン、と再び馬車がゆれ、ティアがジーニアスの肩にこてんと寄りかかった。
驚いて目を向けると、ティアは変わらず寝息をたてたままだ。
この辺りでは珍しい青銀髪のさらりとした髪に長いまつげ。こぶりのふっくらとした唇。
薄汚れた格好の上、顔を隠すようにしているので気づかれることはないが、ティアはかなりの美少女だった。
もしかしたら拐われたりしたこともあるのではないだろうか。
初めて会ったときの警戒した様子を思い出す。
その時に比べると今はずいぶん柔らかくなったものだ。
頭をなでると安心したような笑みがわずかに浮かび、思いがけず心臓が跳ねあがった。
「…し、仕方ないな。起こすのもかわいそうだし…」
無駄に騒ぎはじめる心臓を落ち着かせようとジーニアスはティアをもたせかけたまま、窓の外に視線を向けた。
窓の外には山すその広大な平原が広がっている。
まだまだ町に着くには時間がかかりそうだった。