なんで…?


“ゆとり”じゃないでしょ?


女の子じゃないでしょ?



「……葵。」


すれ違うとき,呟くように呼んだ名前に肩を揺らした。


やっぱり葵なの…?


前に黒髪,灰色の瞳の葵に一度だけあったことがあるけどちゃんと男だった。


メイクをして,少しだけ女らしい格好をした葵は,知らない人が見たら女だと思うだろう。


いや知り合いでも気付かない人の方が多いと思う。



「お嬢さん?」


いきなり顔を覗き込まれて驚いた。


それが…葵の母親なんだから尚更。



「具合でも悪いの?
 顔が真っ青よ?」


「いっいえ大丈夫です!」


「そぉ?
 でもやっぱり顔色が悪いわ。
 私の家すぐ近くだから少し休んでいきなさい。」


そう言われるやいなや私は引きずるように連れて行かれた。


罰の悪そうな顔をした葵をみて抵抗する気がなくなった私は,さっきまでいた可愛い一軒家に戻ってきていた。


上がるように言われ葵の後に続く。