帝国湯へ、いらっしゃい


ーーー


うー、ちょっと飲み過ぎたか

部長ってば『まあまあ』なんて、どんどん注ぐんだもんな



悪い気はしないけれど

時計は23時半



………行くかな


一度家に帰る時間はないので
仕方ない

スーツのままで向かう



いつもの引き戸を開けたらオヤジさんがいた

「まだ大丈夫?」

「ああ」


あと20分で閉まってしまうから急いで入った




誰もいない

女湯からも声がしない



一人で縁側に座れば

「贅沢だな」


時計を見ればもう0時にさしかかる手前

「オヤジさん、最後になってごめんね」

「いいさ」



その時

「お父さん」と女湯の引き戸が開いた


番台越しに見える琴ちゃん


「最後?」と聞かれ

「ああ」と答えた



「スーツ?」と聞かれ

「ああ」と答えた



「おやすみ」と言われ

「おやすみ」と応えた



それだけだった