帝国湯へ、いらっしゃい


「タケさんの店で赤ちゃんの写真を見たんだ」

「え?」



「男湯で子供が女湯にいる母親に呼び掛けてたんだ」

「………」


「風鈴は人工の風じゃダメなんだ」

「………」


「焼きそば渡したら、ごちそうさまって言われて」


「風呂券を渡したら、ありがとうって言われた」

「………」



だから、それと同じように


「琴ちゃんとなら小さな幸せが見つけられると思った
……見つけたいと思った」

「…………」



「それだけ。無理に誘って悪かった」

空の弁当箱を袋にいれた



「じゃ、おやすみ」と、立ち上がった


「龍ちゃん」

「ん?」


「このあと、お風呂来る?」

「……今日は行かない」



行っても困らせるだけだろうが


「じゃあな」と言って足を進めた


そこまでバカな男には成り下がりたくない




どこかで風鈴の音がしたけれど

あまり、いい音色じゃなかった