帝国湯へ、いらっしゃい



考えなくちゃいけないこと、沢山ある



生活のための、仕事のこと
惚れてる相手の、琴のこと
突然いなくなった、タケさんのこと
残ってる、ゴンちゃんと自分のこと


頭がごちゃごちゃだ



「……タケ」




「昔、タケに聞いたことがある」

「……何を?」



「いつだったか、もう、昔の事過ぎて覚えてないけど」


「タケ、一度だけ賭けをしたことがあるって」


「……え?」



「……ちょっと待て。思い出すから」

タケさんも賭けをしたことがある?



「確か、まだ20代だったな」

………


「何を賭けたかは、とうとう教えてくれなかったな」



「それって」


それって、もしかして


「琴は知ってる……かも?」

「あり得るな。琴はタケに将棋を教わってたし」



そう、なのか?



「タケさんの賭けたものと、琴の賭けるものって同じってこと?」

「そこまでは分かんねえな」



「何も分からねえが、すごく大事なことだとは思う」


…大事な、こと



「タケは将棋が好きで、神聖なものだって思ってた」

「なのに、賭け事に使ったんだ。だから、すごく譲れないほどの何かだったはずだ」



琴は何を知ってる?

タケさんは何を賭けた?


まったく、タケさんは

「すごいモノ、残していったね」

「とんでもねえ、宿題を置いていきやがったな」



横にあるコーヒー牛乳

「ぬるくなった」

「それ、龍ちゃんが飲んで。オレは飲まないし」


「うん」



「そろそろ、帰るわ」

「ん…」


ゴンちゃんが帰ってもしばらく縁側にいた