願い事は決まったのかと尋ねてくるきみに、僕は小さく頷いた。


ゆりあはそっかと微笑んで、僕の手に握られているチャッカマンを指差した。


「……火、つけよう」

「そうだね、ふたりで同時にね」

「優太、わざと負けるとかはなしだからね?真剣勝負だよ」

「分かってるって。僕も真剣に願い事考えたから。勝ちにいくよ」


ゆりあと目を合わすと、僕は左手の人差し指に力を込める。


ぼうっと、暗闇の海辺に火の玉が浮かび上がった。


「「せいの」」


ふたり同時に線香花火の先をその火の玉のなかに入れる。


それから数秒もしないうちに、線香花火の先にきちんと火で作られた膨らみができた。


初めは小さかった膨らみが次第に大きくなっていき、そこから弾けるようにパチパチと火の粉が散る。


息を潜めて、体が少しでも揺れてしまわないように、慎重に花火を見つめる僕。


ちらりと視線を横にやると、ゆりあも同じように真剣な眼差しで線香花火を眺めていた。


それから数秒がたった。


僕の花火の先の膨れた玉がゆらゆらと不安定に揺れ始めて、心のなかでやばいと叫ぶ。


僕のほうが、これでは負けてしまう。


そう思った矢先、僕の心の叫びを無視するように僕の火の玉はぽろりと無情にも砂浜の上にこぼれ落ちた。


一瞬火のわっかを作って、すぐに砂浜のなかに溶け込んだ火の玉。


「あ、優太の落ちた」


ゆりあを見れば、僕をちらりと見て嬉しそうに笑っていた。


そんなきみの線香花火は、弱いけれどまだパチパチと弾けている。


しかしそれからすぐきみの火の玉も砂浜の上にこぼれ落ち、残念そうな顔をしたゆりあがいじけながら呟いた。


「あ、もうちょっと長いこといけると思ったのになあ。落ちちゃった」


そんなゆりあの頭を、僕はてのひらで小突く。


「……勝負には勝ったんだからいいじゃん。僕なんて頑張ってたのに、早く落ちちゃったんだから」

「ふふ、そうだね。優太、すごく真剣な顔して線香花火見てた」

「こら、僕のことばかにしてるでしょ」

「してないよ。ただ、一生懸命してたのにかわいそうだなあって」

「……それをばかにしてるって言うんだよ、ゆりあ」


僕の言葉に、ゆりあはあどけなく笑った。