捨てたわけじゃない。
ただ、もうその名前にすがって生きるのには、死んでいった人たちに申し訳ないから。
独り立ちをしなくては、散らした命を踏みにじるのと同じだ。
「“雛菊 妃彩”。雛菊を受け入れなくちゃ、汐弥……お兄ちゃんに背負わせっぱなしだからさ」
あの人だけじゃなく、私も雛菊であることにはかわりない。
今更あの人の守ってきたものに気付いたとしても遅かった。
だからせめて、私が死ぬまであの人のために生きる。
雛菊として、篠原にすがらず。
本家の者として、分家にすがらず。