「お父さんとお母さんは、私を捨てていなくなりました。 私がバイト代で少しずつ貯めていた通帳も持っていなくなったんです。」 「…。」 男は黙って聞いていた。 相槌をうつでもなく黙って聞いていた。 しばらくの間をおいて 「そうか。」 と言った。 そして続ける。 「それで…君は。」 「…。」 「行く当てがあるのか?」 そう聞いてくる。 「え?」 予想外だった。 めんどくさいとすぐにここを出されると思った。 「あるのか?」 「……ないです。」