『……行けよ』 「え?」 『目の前にいるのが誰かも分からないのだったら、とっとと行け』 失望したようにそういうと、わたしに背を向ける。 『ささやかな魔法が解ける前にな。俺はもうここで降りさせてもらう。そうケントに伝えておけ』 「ケントって?」 わたしの質問に答えることなく、和泉くんはまるで吸い込まれるような速さで階段を下りて姿を消してしまった。