表情のない能面。
やっぱり怒っているようにしか見えないけれど今度は何か切実な。
体の大きくて大人っぽい和泉くんがなぜか縋ってくる子供みたいに不意にわたしの腕を掴んできた。その強い力に思わず悲鳴をあげそうになる。
わたしを引き止めようとするかのような、わたしに「行け」と言いながらどこへ行くことも許さないというような。
痛みを覚えるほど力の込められた手と思いつめたまっすぐな目。
もしわたしがエリナ部長みたいな美人だったら、和泉くんのこの真剣なまなざしを熱烈な求愛だと受け止めていたかもしれない。でもわたしは。
わたしに向けられるこの視線の意味がわからなくて、すこし怖くなった。
「和泉くん……?どうしたの…?」
『俺は』
和泉くんは何度も口を開きかけて、でもそれが言葉になる前に諦めたように首を振ると、掴んだときと同じくらい唐突に突き放すように手を放した。


