『お待たせいたしました』
タイヤ付きのハンガーラックにたくさんの衣装を提げてスタッフさんが戻ってくる。部屋の奥からもう一人出てきて「コスチュームコンシェルジュの高山と申します。どうぞよろしくお願いいたします」と丁寧な挨拶をしてくれた。
「あの?お借りしたタオル、洗って返せないのは申し訳ないんですが、わたしはこれで」
わたしがあわてて出ていこうとすると、スタッフさんが困惑した顔で和泉くんを見た。
『お嬢様がこうおっしゃられていますが』
『……僕の言ってることを彼女に伝えてもらえますか?』
和泉くんが発音のクリアな英語で話すのを綺麗な姿勢で聞き届けた後、高山さんはわたしに向き直った。
「こちらの男性さまが、お嬢様がこんなことになったのもすべて自分のせいで、どうかお詫びに代わりに着るものを用意させて欲しい。そんな風邪を引いてしまうような格好のままでいられたら気が咎めて今晩は眠れそうにもない、そうおっしゃっておいでです」
なんですと。
いったいこの人の行動にどんな意図があるのかもわからないけど、自分でやっといてよくもそんなことがいえるもんだ。


