『まぁ……!!これは大変。花瓶の水をかぶってしまわれたのですね』
『それで申し訳ないのですが、ここに置いてある衣装うちどれかを彼女に貸していただくことは出来ませんか?さすがにこの姿のままでいさせるのは忍びなくて』
『勿論でございますとも。まずはタオルをお持ちしますね、さあ中へお入りください』
話が一区切りついたようで、スタッフさんは躊躇うわたしを衣装室に招き入れると、おそろしいほど肌触りのいいタオルを差し出してきた。
「あ、ありがとうございます」
「どうぞお寛ぎください。今、お嬢様にお似合いなものをいくつかお持ちいたしますので」
「え?あの」
スタッフさんは「staff only 」のプレートが掛かった部屋に消えてしまった。
「えと、和泉くん」
投げかけた視線で説明を求めてみたけれど、きれいに無視されてしまう。スタッフさんと穏やかな口調で話していたときとは打って変わってまた能面顔だ。
その横顔には「おまえに話すことなどない」と書かれていた。


