「ちょっ……何なの、離してよっ」
和泉くんは二階メインフロアの色取り取りの衣装が並んだガラス張りの部屋の横を通り過ぎると、その先の「LuxuryCostumeSalon」と書かれた入り口の扉を覗き込んで言った。
『すみません』
和泉くんが声を掛けると品のいい黒の制服を着た衣装室スタッフが、すぐに対応に出てきた。
『いらっしゃいませ、ようこそ』
一流のスタッフばかりの揃う帝宮ホテルのスタッフは、当然のようにうつくしい英語で答えていた。
『予約がなくて急なことなんですが。ちょっと困ったことがあって』
『いかがされましたか?』
『僕の不注意で、今、窓辺にあった花瓶を倒してしまって……』
『まあ!お怪我はございませんでしたか?お客様の手を煩わせるような場所に配置しておりましたこと、大変申し訳ございません』
『いえ、それは大丈夫なんですが。運の悪いことに、彼女がこのとおりのありさまで』
和泉くんは背後にいたわたしの背をぐいっと押した。前に出されたわたしの姿を見てスタッフさんが絶句する。