ちょっと!和泉くん、何して……」

慌てて百合の花を拾おうとその場に屈むといきなり頭に水がぶちまけられた。

あまりなことに絶句して見上げると、和泉くんが花瓶の口をわたしに向けたまま、頭から濡れたわたしを見下ろしていた。

なんの情動も感じない、さっきの揶揄の視線の方がまだ人間味があるんじゃないかとまで思えるその無感情な目。



-------なんてひどい一日だろう。



公衆の面前で馬鹿にされたうえに、今度は汚いものみたいに頭から水まで掛けられてしまうなんて。

また目元が潤みかかったけれど、あまりにも状況がひどすぎて泣きたいのに泣けず逆に闘志が沸いてきた。

絶対、こんな人の前で泣くもんか。ぎっと睨み返す。しばらく表情の変わらない相手をそれでも睨んでいると、不意に和泉くんが思わずといった様子で口を開いた。


『泣かないんだな』
「………泣かないよ」

ヒアリングはそれほど出来るほうじゃないけれど、Don't you cry?くらいは聞き取れた。

「泣くわけないよ。だってぶすはみじめだけど、泣いてるぶすはもっとみじめだもの」

わたしがそういうと和泉くんは一瞬目を見張り、それから不快げに顔を背けた。


『……何も俺はブスだとは言ってないだろう』


英語で心外そうに何か呟いた後、わたしの腕を掴んで歩き出す。