(3)Lサロン


「……どこへ行くの?」


どうにか追いついたけれど、和泉くんは階段を二段抜かしで上がっていってしまうからわたしは運動部の校内練習みたいなスピードで駆け上がらなくてはいけなかった。

二階フロアに出てからも背後に女の子をつれているとは思えない思いやりのかけらもないスピードでどんどん歩いていく。いちおう待ってと呼びかけてみたけれどやっぱり止まってくれない。


和泉くんは意思の明確な足取りでどこかへ向かっていた。

何を聞いても沈黙を返されるので、とりあえず彼の目的の場所まで付いて行こうと決めた。

会話もなく駆け足で歩きながらそういえば和泉くんの名前はなんだったかなと、状況がよく飲み込めない飽和状態の頭でどうでもいいことを考えていた。


------たしか科学とか、SFとかでよく聞く名前で。ニュートンとかアシモフとかそれに近い……昔みた海外ドラマの登場人物にもいた名前でたしか、えっと------。


答えが出る前に、和泉くんが急に立ち止まった。何もない、絨毯張りの廊下だ。傍らの窓辺には細かいカッティングの施された繊細な花器に、真っ白な百合が飾られていた。


『……思いのほかあざといよな。あの中で制服なんてむしろいちばん目立ってたくらいだ』


英語で何事か言うと、和泉くんは活けてあった百合の束を一掴みにして無造作に床に投げ捨てた。