スーツ姿がとても様になりすぎててとても同じ高校生には見えなかったし、髪を下ろして制服を着ているときとはあまりにギャップがあるから誰だか分からなかったけど。

たぶんこのひとって最近編入してきてユキちゃんがカッコイイって騒いでいた隣のクラスの帰国生だ。名前は確か。


「……和泉くん……だっけ?」


呼びかけても何の反応もない。能面みたいな無表情はなんだか怒っているようにも見えて怖くなった。

「あの、えっと何か用でも?わたし今ちょっと人探してて-------」
「こっち」


たった一言だけ。

ぶっきらぼうに言うと和泉くんはまるでついて来いというように親指で合図する。そして何の説明もしないまま長い脚ですたすた歩き出してしまった。

歩幅が広いのであっという間に距離が開く。でも振り返る様子もない。

わたしがついてこようがついてこまいがどっちでもかまわないと言わんばかりだ。最前の胸の中で張り詰めそうになっていた感情がまるごと吹っ飛ぶくらい訳の分からない状況に、しばらくそのしなやかな後ろ姿を眺めたまま動き出せずにいた。

けれど和泉くんの姿がホテル右翼館に続く階段に消えそうになったところで、わたしはあわてて走り出した。