「……忍ちゃんっ」

会場には居なかったから廊下かフロアにはいると思ったのに姿がない。

「忍ちゃんっ」

震える手でポケットから取り出した携帯でコールしたまま歩き続けるのに、やっぱりどこにも見当たらないし、電話もなぜか話中になっていて繋がらない。

「……忍ちゃん、どこなの」


声がなさけなく崩れそうになるからぐっと下唇を噛み締めて堪えると、エントランスホールに続く階段を猛ダッシュで下りた。

高い天井から吊り下げられたバカラのアンティークシャンデリアを抱くようにゆるやかにうねるこの螺旋階段は、ここで挙式をする花嫁さんたちが最もうつくしく撮れると評判の帝宮ホテル自慢のフォトスポットだ。

まるで夜空の星団のような数え切れないクリスタルが柔らかくも圧倒的な輝きできらめく、御伽の国のお姫様のための階段。


『女の子はね、誰でも人生で一度だけどんな子でもお姫様になれる日があるのよ』


わたしもドレスの似合うお姫様みたいなお顔の子だったらよかったのにと落胆する私に、母がそんなことを言ったことがあった。