(2)ちいさな棘


『あー。えっと』

わたしが奇声を上げた後、会場はすっかり静まり返っていた。凍りついたような空気の中でいちばん先に我に返ったのは渋谷くんだった。

『んっと。……まぁそれはさておき。で、広海。誰だって?選べ選べ、みんな知りたがってるぞー』

仕切り直しとばかりに改めて渋谷くんが尋ねる。どうやら高大の発言はなかったことにするらしい。

会場にかすかに笑いが起きる。誰もが今のは笑えなくもない冗談だったのだと受け流そうとしていた。前座はこれでおしまいでこっからがおもしろい本題なのだと。

にもかかわらず空気を読まない顰めっ面の高大は再びまっすぐこちらを指差した。


『だからあれ』


むっつりと答える高大に、学校ではいつも仲間とへらへら楽しそうに笑っている渋谷くんもむっとした顔になった。