(1)「あれ」って何なの


『女子たるもの、腕を磨くために日々お裁縫やお料理に励みましょうね』


わたしが所属する家庭科部の部長のお言葉だ。未来のだんなさまのために日々女子力向上を目指すというのがこの部の主な活動理念。部長の言葉におおいに賛同したわたしだけど、ひとつだけ同意しかねることがあった。


『どうせ目指すなら玉の輿。成星院学園の女子なら、やっぱり高大広海くんのお嫁さんの座を志さないと!』


高大広海(コウダイヒロミ)というやたらスケールのでかそうな名前の男子はうちの学園でいちばんの有名人で、老舗高級ホテルチェーンのH&Lホテルグループの御曹司だ。

ほんとに男なのと疑いたくなるほどつるりとしたたまご肌に、大きくてくっきりした二重。とってもきれいな鼻筋はすっと伸びていて、大きめの唇はきれいなピンク色、笑うとこぼれる白い歯が無駄に爽やか。全体的に綺麗にまとまっているのに、伸びたままの下手に整えたりしていない黒い眉毛がきりっと印象を男らしく整えている。


早い話が、かなりのイケメンってこと。


家柄だけでなくこの容姿のこともあって、高大に告ってくるのは高等部生に限らず下は幼稚舎の女の子から上は大学院のおねえさままでまさによりどりみどり。あまりにもその数が半端ないのでいつしか『高大に告るのは在学中に一人一回まで』なんて掟まで出来たほどだ。

おまけに良いとこのお坊ちゃんのくせに学園祭では仲間の悪ふざけでむりやり上げられたステージで、即興なのにばっちりダンスパフォーマンスなんか決めちゃうようなひとだから、女子だけでなく男子にも、そして先生たちにまで人気がある。



ミスター成星院学園、学園一のモテ男、成星院のスーパースター。



それが高大広海。


だけど。わたしにはわたしだけのすてきな王子様がいる。だから高大のお嫁さんの座なんて知ったことじゃない。