私が所属する美術部の部室は、実技系の特別教室が集まる第三校舎にある美術室だ。
春休みの間、差し迫った展覧会等もなかったため誰も来ていなかった部屋の扉を開けると、揮発油の鼻につく匂いが立ち込める。

窓を開けて換気を行い、うっすらと積もる埃を掃き机を磨く。
明日になれば、この後の入学式を終えた新入生が仮入部にやって来るだろう。
初めてできる後輩の事を考えながら、私は息を弾ませた。

「あの…」
一通りの掃除を終えて、お茶でも飲んで一休みしようと美術室を出ようとしたとき、1人の少女が声をかけてきた。
少し茶色がかった髪、幼さの残る顔立ちとは不釣り合いな身体付き、そのアンバランスさは妙に艶かしく見える。
校章に緑色の縁取りがしてあるということは今年の新入生だろう。

「あの、美術室はこちらでしょうか?」
丁寧な口調で彼女は問いかける。
「そうだけど、貴女新入生でしょ?まだ入学式の最中じゃないかしら。」
「入学式もHRももう終わりましたよ?」
慌てて時計を見ると、確かに予定時刻はとっくに過ぎていた。
「私、油絵に興味があって来たんですけど…先輩は美術部の方ですか?」
「ええ。でもごめんなさい、今日は文科系の部活は休みで、私も掃除に来ただけなの。」
入学式が終わってすぐに見学に来るなんて、よほど楽しみにしていたのだろう。
期待を裏切ってしまったようで、少し心が痛む。
そんな事を考えながら彼女を見ると…