そこはとても気持ちの良い森だった。
木漏れ日が射し、楽しげな小鳥達の声や、遠くに小川のせせらぎが聞こえる。
心地良い風は、セスの頬をなで、長くなった髪をなびかせた。



(あの森とはやっぱり全然違う…)

セスは立ち止まり、振り返る。
そこに今歩いて来た道があることを確かめ、セスは苦い笑いを漏らした。



(そうか、俺はこっちだけじゃなく、今度はこっちにも行けるんだな。
どっちに行くのも俺の自由なんだ…)

そんなつまらないことが、セスの胸を躍らせた。
足取りも軽くなり、まるで飛び跳ねるようにセスはその森を進んで行く。

胸につかえていた様々な想いも今は忘れ、セスは心を解放して自然の優しさに身を任せた。
久し振りに思い出した満ち足りた気持ちに、セスは不意に喉の渇きを感じた。



(水の音…さっきより近くなってる…)

セスは水を求め、そのまま歩き続けた。
しばらく歩き続けると、やがて、セスの目の前に小さな泉が現れた。



その泉の中央の宙には、白羽扇を優雅に動かす者が浮かんでいた。



(う…浮かんでる…何者なんだ!?)

セスは妖しげな者の存在に身を固くする。



「ようこそ…」

紡がれた低い声と共に、顔を上げたフォルテュナの瞳が大きく見開かれた。



「フォ…フォルテュナじゃないか!」

「セス…なぜ、君がここに…!」

二人は、お互いみつめあい、思い掛けない再会にただただ驚くばかりだった。



「フォルテュナ…無事だったんだな…」

フォルテュナの様子を見て、自分の考えていたことが全くの見当違いだったことに気付き、セスは身体から力が抜けるのを感じた。



「……もしかして、君は僕を探しに来てくれたの?」

「え…あぁ……うん、まぁな。
俺……馬鹿だな……
……あぁ、そうだったのか…
あんたは自分の意志で…それなのに、俺は、あんたが俺の代わりに誰かにかどわかされたんだと勘違いして…」

「セス…僕は自分の意志で戻ったわけじゃないんだ。
言うなれば『戻された』だね。
僕は、突然、あの世界に連れて行かれ…そして、また戻された。
自分の意志で戻ると決めたのなら、いくらなんでも君に黙っては去らないよ。」

「……そうだったのか…
……それにしても……」

セスは、あらためてフォルテュナを上から下までじっくりと眺め透かす。