「じゃあ、頑張れよ!」

「また、遊びに来てくれよ!」

「あぁ、みんなも元気でな!」

見慣れた顔に手を振りながら、セスは城を旅立った。



あれから数日後、ラーシェルの葬儀がしめやかに執り行なわれた。
国民や舞踏会に来ていた者達はもちろんのこと、さらに遠くの国からも身分を超え大勢の者が訪れ、ラーシェルの死を悼んだ。

あの後、天から降り、そして再び上っていったジュネとラークの姿を大勢の者達が見ていた。
誰が見ても天界の者であることがわかる清く美しい白い翼…
もう誰も、ジュネやラークを悪しき者の使いだなどと考える者はいなかった。
少数ではあったが、大臣の醜悪な姿を見た者もいた。
大臣こそが悪しき者であったことは明白となり、それを倒したターニャや兵士達の活躍、そして、息子をかばって命を落としたラーシェルは哀しき英雄としてその名を広めた。

ターニャはあの後、体調を崩し、葬儀に参列することなく帰国した。
シスター・シャーリーも同じように体調が悪いと言い出し、葬儀にも姿を現さなかったが、修道服を脱いだシスター・シャーリーらしき者の姿をみかけたという者がいた。
葬儀の次の日、シスター・シャーリーは城から完全に姿を消した。
部屋には書き置き一つ残されてはいなかった。

ギリアスは、突如、兵士をやめると言い出した。
実は、ロジャーは別れた妻との間に出来た子で、なんとしてもロジャーを救いたいがためにシスター・シャーリーに救いを求めたことに深く責任を感じていたのだった。
シスター・シャーリーが万一大臣の息のかかった者ならば、隠し部屋は暴かれ、兵士達の命は奪われ、当然、ラーシェルを助け出すことも出来なくなるとわかっていながら、ギリアスは息子の命を選択した。
そのことでギリアスは、全ての片が付いた暁には兵士をやめることを決意していたと言う。
だが、部下達を始めロジャーに説得されていることから、おそらくやめることはないだろうと皆は感じている。
この先、次期国王が誰になるのかはわからないが、ほとんどの兵士が失われた今、ギリアスは城にはなくてはならない存在だ。
本人もやがてそのことに気付くだろうと考えながら、今も説得が続いている。

ライアンは、あれ以来、明らかに明るく変わっていた。
以前は、自分の体格や体力にコンプレックスを抱いていたが、非力な者でも知恵を遣えば大きなことが出来るとわかり、自信を付けたライアンは顔つきからして違って来ていた。
これからは祖父の歩んだ設計の勉強すると大きな夢に胸を弾ませる。