やがて、ジュネとラークの姿が見えなくなると、虹色の光りを発する空の裂け目は元の通りに閉じられた。



「ラーシェル様…!
申し訳ございません!」

ギリアスは、ラーシェルの亡骸に向かい地べたに頭をこすりつけるように深く下げた。



「あなたのせいじゃない…
私のせいなの…すべては不完全な魔法をかけてしまった私の…」

ターニャは、レースのハンカチでラーシェルの顔の血を拭った。



「……なんて安らかな顔をなさっているのかしら…
ラーク様を守れた満足感…それとも、ルシアン様がお迎えに来て下さったのかしら…」

綺麗になったラーシェルの顔は、本当に眠っているようだった。
幸せな夢を見て眠り、しばらくすれば何事もなかったかのように目を覚ましそうなその顔が、さらに皆の悲しみを募らせた。



「ターニャさん…こんな時になんですが……魔法が不完全だったというのはどういうことなんですか?」

「あの光りの魔法は、本来ならあいつの身体を浄化し霧のように飛散する筈だったの…
なのにそうならなかった。
だけど、あいつの気配は確かに消えていた…
……それで油断してしまったのね。
私は、もう一度詠唱を始めからやり直し、完全に浄化するつもりだった。
そんな時にお二人が現れて……」

ターニャは唇を噛み締め、俯いた。



「いいえ、悪いのは私です。
陛下を御守りする立場にいながら、なんという失態を…」

「あなた方は控えていたし、ラーシェル様から離れていた。
それに、あの化け物の動きは信じられない程速かった……ラーシェル様がラーク様を救えたこともまるで奇蹟のようなことです。」

「……父親が子を案ずる愛の力なのでしょう…」

「そうかもしれないわ…
ラーシェル様は、国王でありながらも、父親だったのね…」



ターニャの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。