皆の視線がケネスの指差す方へ注がれる。
明るい光りの中で動くものは、近付くにつれ、その姿を明らかにした。



「おぉ……」

ラーシェルは、その姿に涙を流し膝を着いた。



「ラーシェル様……」

ターニャは、ラーシェルの肩を優しく抱き締めた。

皆の見守る中、小さな羽音を立てながら、ジュネとラークが静かに地面に降り立った。
兵士達は恭しくその場に跪く。



「父様!」

「会いたかったわ、父様!」

「おまえ達…」

二人の子供達は、父の胸に飛びこんだ。
ラーシェルは二人の身体を両手で抱き締め、感情のままに熱い涙を流す。
その光景に、兵士達も目尻の涙をそっと拭った。



「……二人共、元気そうでなによりだ…」

「父様はどうなさったの?
しばらく見ない間にこんなにおやつれになって…」

「それにこの魔物は?」

二人は、不安そうな表情でラーシェルをみつめる。



「私ならなんともない。
もうすべては終わったのだ。
それに、おまえ達の元気な姿を見たら、とても元気が出たよ。
……向こうでの暮らしはどうなんだ?」

「向こうはとても快適よ。
皆、優しいし、とても綺麗で素敵な所よ。」

「……そうか、それは良かった…」

「父様は向こうに来られないの?」

「……私には、この国を守る責任がある…
だから…行けないんだ……」

その言葉を聞いた途端、二人の瞳にはこぼれそうな涙が溢れた。



「そんなことより、どうしておまえ達はここへ…?」

「……少し前からこのあたりは真っ黒な靄のようなものに覆われていたの。
それで、私達とても心配で……ほんの少しでいいから様子を見にいきたいとずっとお願いしてて…」

「さっき、やっとお許しが出たんだ。
すぐに戻らなきゃならないんだけどね…」

「それはきっとあの化け物の…」

ラーシェルが、化け物の方へふと目をやった時、その背中がほんの少し動くのを見たような気がした。
ラーシェルは目を凝らし、じっと化け物をみつめる。



「危ない!」

やはりそれは錯覚ではなかった。
風のように素早く、化け物は立ち上がり、その腕が動き出した。
ラークが捕まれそうになった所をラーシェルが突き飛ばし、化け物の手はラークではなく、ラーシェルを掴んだ。
おぞましい声を上げ、化け物は両手でラーシェルの身体を締め上げる。
ラーシェルの口からは赤黒い血が噴き出し、その様子に子供達は悲鳴をあげて泣き出した。



「おのれ!化け物!」

兵士達が剣を抜いた時、空の裂け目から光の刃が化け物の身体に槍のように降り注ぎ、化け物は断末魔の叫びを上げて蒸発するように消えていった…